凛とした、それでいて温かい空気が流れる稲沢市緑町。
店に入ると、静かな水音が迎える。生け簀の中で魚が身を翻す。その気配が、この店のすべてを物語る。注文と同時に魚はすくい上げられ、間を置かず包丁が入る。まな板に響く乾いた音、刃が走るわずかな抵抗。無駄はない。
皿に引かれた刺身は角が立ち、透き通る艶。口に含めば張りのある弾力のあと、旨味がゆっくりほどける。「今さばいた意味」がはっきり伝わる味だ。
もう一つ、客の記憶に残るのが海老フライ。油に入った瞬間の軽やかな音。引き上げられた衣は細かく均一で、きつね色に揃う。箸を入れるとサクッと乾いた音が響く。中の海老は太く、熱を帯びた甘みが広がる。衣の軽さと身の力強さ。この対比が満足感を押し上げる。
青木さんの原点は、高校時代の寿司屋でのアルバイト。魚を捌き、寿司を握る、その一つ一つに面白さを見た。先代と現社長のもとで基本を徹底的に叩き込まれ、「早く一人前に」という思いで走り続けた。気がつけば二十七年。人生の半分以上をこの店で過ごす。
「自分は話し下手なんです」そう語るが、皿の上は雄弁だ。語らず、仕事で示す。その寡黙さこそ板前に向いている。
カウンター、座敷、個室。用途は広いが本質は一つ。「外したくない時に選ばれる店」。祝い事や集まりで選ばれるのは、味だけでなく「裏切らない安心感」があるからだ。接客も過不足なく丁寧。その積み重ねが、店の空気を整えている。
例えば鯛の兜煮。一般的には煮含める料理だが、ここでは短時間で一気に火を入れ、同時に濃い煮汁を絡める。その結果、身はふっくら柔らかく、それでいて味はしっかり乗る。「どうすれば一番うまいか」の答えが、この一皿にある。
やまさ茶との出会いは一杯のサンプルだった。口にした瞬間、「これは違う」と感じたという。料理の流れを壊さず、むしろ整える力があった。安い茶はいくらでもあるが、「お客様に出せるか」は別だ。やまさ茶は価格以上に味と香りのバランスが良い。余韻を静かに引き、次の一口へとつなぐ。揚げ物の後、その切れが際立つ。
青木さんは多くを語らない。すべては皿に込められている。鮮度、火入れ、基本。それを二十七年続けてきた。だからこそ、この店には「任せられる一皿」がある。特別なことではない。だが、その当たり前を徹底できる店が、最後に選ばれる。
「やまさを彩る人々」は、料理人とお茶の物語を綴る特集シリーズです。