深蒸し茶はカテキンが多い?まろやかさを科学的に調べてみた
「深蒸し茶は、茶葉の成分がよく出るからまろやかなんですよ」
お茶の説明では、よくこのように言われます。
確かに深蒸し茶は、普通蒸し茶に比べて茶葉が細かくなりやすく、濃い緑色の水色と、やわらかな口当たりが特徴です。
では、その「まろやかさ」は、茶葉の成分がたくさん溶け出すことによって生まれているのでしょうか。
少し気になったので、深蒸し茶と普通蒸し茶を比較した研究論文を調べてみました。
すると、一般的に思われているイメージとは少し違う、興味深い結果が見えてきました。
深蒸し茶はカテキンが多く出るのか?
まず気になるのが、渋味に関係するカテキンです。
深蒸し茶は茶葉が細かいので、「カテキンもたくさん出るのでは?」と思うかもしれません。
ところが、廣野らの研究では、1煎目と2煎目を合わせたカテキンの浸出率は、
深蒸し茶 45%
普通蒸し茶 44%
となり、両者に有意な差はありませんでした。
つまり、少なくともこの研究結果からは、「深蒸し茶だからカテキンがたくさん出る」とは言えません。
ただし、面白い違いがありました。
1煎目では普通蒸し茶のほうがカテキンの浸出率が高く、2煎目では深蒸し茶のほうが高かったのです。
合計するとほぼ同じでも、「いつ、どのように出てくるか」には違いがある。
深蒸し茶と普通蒸し茶の違いは、単純に「成分が多い、少ない」だけでは説明できないようです。
では、旨味のテアニンは増えている?
もう一つ気になるのが、緑茶の旨味に関係するテアニンなどのアミノ酸です。
「深蒸し茶はまろやかだから、旨味成分も増えているのでは?」と考えたくなります。
しかし、同じ茶葉を使って蒸す時間だけを変えた研究では、テアニンや総遊離アミノ酸の茶葉中含量に、明確な差は確認されていません。
つまり、「深蒸しにするとアミノ酸が増えるから、まろやかになる」と単純に説明することもできません。
では、深蒸し茶の特徴的な味わいには、いったい何が関係しているのでしょうか。
深蒸し茶で大きく変わる「水溶性ペクチン」
そこで注目したいのが、水溶性ペクチンです。
ペクチンというと、果物などに含まれる成分を思い浮かべる方も多いかもしれません。実は茶葉にもペクチンが含まれています。
廣野らの研究では、深蒸し茶と普通蒸し茶を比較すると、1煎目と2煎目を合わせた水溶性ペクチンの浸出率は、
深蒸し茶 34%
普通蒸し茶 16%
でした。
深蒸し茶の浸出率は、普通蒸し茶の2倍強。
さらに、同じ茶葉を使って蒸す時間を変えた実験でも、蒸熱時間が長くなるほど水溶性ペクチンが増えることが確認されています。
なぜ深蒸しでペクチンが増えるのか
その理由として研究で示されているのが、蒸熱中に起こる「β脱離(ベータだつり)」という反応です。
蒸す時間が長くなると、もともと水に溶けにくかったペクチンの一部が、水に溶けやすい形へ変化します。
そのため、深蒸し茶では水溶性ペクチンが多く浸出するようになります。
ここが、深蒸し茶の味を考えるうえで非常に興味深いところです。
ペクチンはカテキンの渋味を抑えるのか
さらに別の研究では、茶浸出液から得られたペクチンを使い、カテキンとの関係が調べられています。
その実験では、深蒸し茶に含まれる濃度を反映した60mg/L程度のペクチンを加えると、渋味に関係するガレート型カテキンの初期の渋味が、味覚センサーで抑制されることが確認されました。
これは、「深蒸し茶を飲んだ人が実際にまろやかになったと感じた」という官能試験ではありません。
あくまで、ペクチンとカテキンの関係を調べた機構的な実験です。
しかし、
蒸す時間が長くなる
↓
水溶性ペクチンが増える
↓
カテキンの初期の渋味を抑える可能性がある
という流れは、深蒸し茶の味わいを考えるうえで興味深い科学的な手がかりになります。
深蒸し茶の「まろやかさ」は何から生まれるのか
今回調べた研究を整理すると、少なくとも単純に、
「カテキンが増えるから」
「アミノ酸が増えるから」
とは説明できません。
一方で、蒸熱時間が長くなることで水溶性ペクチンが増えることは、複数の研究で確認されています。
そして、そのペクチンがガレート型カテキンの初期の渋味を抑える可能性も示されています。
したがって現在の研究結果から考えると、深蒸し茶のまろやかさには、「成分が単純に増えること」ではなく、蒸すことで成分の状態や抽出のされ方が変わることが関係している可能性があります。
もちろん、深蒸し茶の味わいを水溶性ペクチンだけで説明できると、現段階で断定することはできません。
お茶の味は、品種、茶期、原料、製造条件、湯温、浸出時間など、さまざまな要素が重なって生まれるからです。
それでも、普段何気なく飲んでいる一杯の深蒸し茶の中で、蒸す時間の違いによって成分の姿が変わっている。
そう考えると、いつものお茶が少し違って見えてきませんか。
まとめ
- カテキンの1・2煎合計の浸出率は、深蒸し45%、普通蒸し44%で大きな差はなかった
- ただし、1煎目と2煎目ではカテキンの出方に違いがあった
- テアニンなどのアミノ酸は、蒸し時間を長くしても増加したとは言えない
- 水溶性ペクチンは、深蒸し茶で普通蒸し茶の2倍強の浸出率だった
- 蒸熱時間が長くなるほど水溶性ペクチンが増えることも確認されている
- ペクチンにはガレート型カテキンの初期の渋味を抑える可能性が示されている
「深蒸し茶は成分がよく出るからまろやか」。
この言葉を、もう少し科学的に言い換えるなら、「蒸すことで茶葉の成分の状態や抽出され方が変わり、その一つとして水溶性ペクチンが増えることが、味わいに関係している可能性がある」というところでしょう。
お茶は、知れば知るほど面白い飲み物です。
参考にした主な研究
廣野久子・後藤昇一・相羽信弥「蒸し度の異なる煎茶(荒茶)における水溶性ペクチンとカテキン類の含量分析」日本食品科学工学会誌 67(8), 264-270, 2020.
Hirono H. and Uesugi S. “Changes in the Content of Pectic Substances in Tea Leaves During the Steaming of Green Tea” Food Science and Technology Research 20(4), 859-865, 2014.
Hirono H. “Effect of tea infusion-derived pectin on the astringent taste of catechins” Food Science and Technology Research 28(2), 187-194, 2022.
高柳博次・阿南豊正・池ヶ谷賢次郎「蒸し度の差異による製茶の理化学性の変化」茶業研究報告 65, 81-85, 1987.
野村幸子・物部真奈美・江間かおり・山下修矢・吉田克志・根角厚司「'やぶきた'二番茶の煎茶および釜炒り茶の冷水浸出液における化学成分の違い」茶業研究報告 135, 19-28, 2023.