【やまさを彩る人々】厨房のプロが認めた、この味
一皿の料理を支えているものは、目に見える食材だけではありません。
一宮市印田通の「和食おくやま」で、そのことを最もよく物語っているのが、毎朝引かれる一杯の出汁です。
店主・奥山喜樹さんは、料理人として34年間、和食と向き合い続けてきました。 華やかな言葉で自らを語る人ではありません。 しかし、毎朝変わらず出汁を引き、旬を見極め、一皿一皿を丁寧に仕上げる仕事には、奥山さんが大切にしてきたものが静かに表れています。
和食おくやまの一日は、一杯の出汁から始まる
暖簾をくぐると、ふわりと漂う鰹と昆布の香り。
まだ料理が運ばれていなくても、「この店は出汁を大切にしている」と感じさせる香りです。
奥山さんが毎朝、最初に取りかかる仕事が出汁を引くこと。
添加物や保存料に頼らず、鰹と昆布から丁寧に旨味を引き出していきます。
出汁は、それだけで主役になるものではありません。 煮物の奥に隠れ、茶碗蒸しを支え、お椀の味をまとめる。 いわば料理を下から支える存在です。
だからこそ、ごまかすことができない。
煮物はやさしく、茶碗蒸しはなめらかに。 そして、お椀は身体にすっと染み渡っていくように。
和食おくやまの料理には、目立たないところにこそ手を抜かない、日本料理らしい仕事があります。
華美ではない。その落ち着きも「和食おくやま」の魅力
店内にも、奥山さんの料理とよく似た空気があります。
必要以上に飾らない。 それでいて、どこか落ち着く。
木を生かした店内にはテーブルが並び、目の前の料理とゆっくり向き合える空間がつくられています。
和食には、料理そのものだけでなく、器や盛り付け、香り、季節、そして食事をする空間まで含めて楽しむ文化があります。
和食おくやまの店内もまた、料理を引き立てる「余白」のひとつなのかもしれません。
旬の天然魚を、一番おいしい姿で一皿に
その日に仕入れる天然魚も、和食おくやまの楽しみのひとつです。
本鮪や天然ヒラメをはじめ、奥山さん自身が見極めた魚介が、美しく一皿に盛り込まれます。
料理人の仕事は、素材に何かを足すことだけではありません。
素材そのものが持っている旨味、食感、香りを見極め、余計なことをせず、その日の一番よい状態で客前へ出す。
そこにも、奥山さんの和食に対する考え方が表れています。
季節になれば、鮎の塩焼きも人気です。
香ばしく焼き上げながら、頭から丸ごと味わえるよう細やかに仕事をする。 食後には自家製のわらび餅が、食事の時間に静かな余韻を添えます。
季節が変われば、皿の上も変わる。
日本料理のおもしろさは、同じ店を訪れても、その季節にしか出会えない味があることなのだと思います。
料理人になった理由は「自然に。ただ好きだったから」
奥山さんに、なぜ料理人になったのかを尋ねました。
返ってきた答えは、とても短いものでした。
「自然に……ただ好きだったから。」
大げさな理由はありません。
しかし、その「好き」を34年間続けることは、決して簡単ではないはずです。
毎朝出汁を引く。 その日の素材を見る。 包丁を入れる。 盛り付ける。 そしてまた次の日も、同じように厨房へ立つ。
料理を続ける中で何を一番大切にしてきたのか。 その問いに対しても、奥山さんの答えは明快でした。
「お客様の『美味しい』の一言のために。笑顔で帰ってもらいたい。」
職人というと、技術ばかりに目が向きがちです。
けれど、その技術の先にいるのは、料理を食べる人です。
奥山さんが34年間磨いてきた仕事も、結局は「お客様に喜んでもらう」という、とてもシンプルなところへ戻っていきます。
料理の始まりと終わりをつなぐ、やまさのお茶
奥山さんと、やまさ製茶のお茶との出会いは、営業担当者とのご縁がきっかけでした。
初めて口にしたとき、その味に納得していただいたことから、和食おくやまでお使いいただくようになりました。
奥山さんがお茶について話してくれた中で、印象的だった言葉があります。
「食前は香りを楽しんでいただき、食後はホッとしていただきたい。」
お茶を単なる飲み物としてではなく、料理の時間をつなぐものとして捉えているのです。
料理が始まる前の一杯。
そして、食事を終えた後の一杯。
食前のお茶は、これから始まる食事への気持ちを整える。 食後のお茶は、料理の余韻を残しながら、ほっとひと息つく時間をつくる。
主役はあくまで料理です。
だからこそ、その料理の邪魔をせず、食事の始まりと終わりにそっと寄り添うお茶がいい。
それもまた、「笑顔で帰ってもらいたい」という奥山さんのおもてなしの一部なのでしょう。
目立たなくても、暖簾の向こうには確かな仕事がある
「和食おくやま」は、遠くからでも目立つような派手な店構えではありません。
入口には小さな看板と暖簾。
けれど、その暖簾の向こうでは、毎朝変わらず出汁が引かれ、その日の魚が選ばれ、一皿一皿がつくられています。
華美に走らず、細部を大切にする。
それは料理にも、店にも、奥山さん自身にも共通しているように感じます。
普段の奥山さんは、気さくで明るい方です。
一方で、仕事について多くを語るタイプではありません。
それでも、
「毎朝、最初に出汁をとる。」
「お客様に笑顔で帰ってもらいたい。」
その短い言葉の中には、34年間変わることなく料理と向き合ってきた人だからこその重みがあります。
一皿に息づく、和の美意識
出汁を引く。 旬を見極める。 素材に必要以上の手を加えない。 そして、食べる人の笑顔を思う。
一つひとつを取り出せば、ごく当たり前の仕事に見えるかもしれません。
しかし、その当たり前を34年間積み重ねていくことこそ、職人の仕事なのだと思います。
美しいお造りにも、やさしい出汁にも、落ち着いた店内にも、奥山喜樹さんが大切にしてきた「和」の美意識が息づいています。
そして食事の始まりと終わりには、一杯のお茶。
料理を邪魔せず、それでいて食事の時間を心地よく整える。
料理人が選ぶお茶を訪ねていくと、私たち自身もあらためて、お茶は味だけで完結するものではないことに気づかされます。
誰が淹れ、どんな料理とともに、どんな時間に飲まれるのか。
その一杯の向こうには、人の仕事と、おもてなしの心があります。
「やまさを彩る人々」―料理人が認めた一杯
やまさ製茶のお茶を選んでくださる料理人・職人の皆さまを訪ね、その仕事と人生を記録する「やまさを彩る人々」。
一杯のお茶をたどっていくと、その先には、それぞれの店が守り続けてきた味と、人の物語があります。
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これからも「やまさを彩る人々」では、一杯のお茶の先にある、人と料理、そしてご縁の物語をお届けしていきます。